夜用の声

木口さんのdiaryから。


タクシー好きだなんだねと、夜用の声で耳打ちすると、
ややテンパった仕草を見せたのが、かわいかった。
「夜用の声」。わかりやすく言えば、「口説くテンション」。
「夜用の声」って何ですか。無意図的に使い分けていることはあるかも知れないけれど、意図的に使い分けることは結構難しいなあ。言葉を道具として自在に使えるということは非常に強力な武器なのだけれども、なかなか使えるものではない。

タクシーに乗ってしばらくすると、もういや、と仕事をグチる彼女。
ぎゅってしたげよっか、ぎゅって、と言うと、いいんですかと返ってきたので、
ためらうことなく、いいよと返すと、しばらく間。
どっちがどう出るか、お互いにタイミングを計っているようで可笑しかった。

でも木口さん、彼女とか、いないんですか、と彼女。
いない、って答えたら、どうするつもりなんだろ、返すとまたしばらく間。
そのときの、返事以外の何かに迷っているような彼女のリアクションに欲情した。
多くのオスには、迷っている女子を半ば強引に抱きたい欲がある。
そしてぼくも迷っていた。迷いつつ、流れに任せようと思った。で、流された。

どうも欲情、しかも瞬時に欲情する瞬発力が重要なのだな。そしてその欲情を形にする力。
僕は瞬時に欲情するってことはあまり無くて、それはオスとしてどうかとは思う。そして、欲情を形にする力も弱い。まあ、そう云うタイプの男に欲情する女性も居る訳なので、世の中うまくいっている訳だが。
おそらく、僕はお互いタイミングをはかる時に生じる緊張感に堪えられなくて緊張緩和で笑いに持って行ってしまうのだな。常には生真面目な人間であるのに。うーん。彼我の差を感じてしまう。一言で云うと「うらやましい」。